第15話・2026.09.16
最初に詰まったユーザーは、先生でした。
少女攻守交代伝説。——なお、最初に詰まったのは先生である。

彼女のアプリで最初に詰まったユーザーは、私である。
しかも詰まった場所には、説明がちゃんと書いてあった。
順を追って話す。ユーザーテストというものがある。作った人以外の人間にアプリを触ってもらい、どこで詰まるかを観察する工程だ。作者には自分のアプリの欠点が見えない。だから他人の目を借りる。
女子高生が作ったテスト勉強アプリは、もう公開されている。次の段階は、知らない人に使ってもらうこと。その練習として、この日の授業は「初見のユーザー役」を私がやることになった。
つまり、攻守交代である。
教える側だった私が、何も知らないユーザーとして彼女のアプリをスマホで触る。作った側の彼女が、それを見ている。
テストの前、私は少し楽しみにしていた。教えてきた側である。多少は良いところを見せられるだろう、と。
——この予想は、この連載のすべての予想と同じ運命をたどる。
さっそく、テストを登録してみる。
テスト名を入れ、科目を選ぶ。1日目、2日目、3日目——ふむふむ、日ごとに科目を選んでいくのか。
そこで彼女から声が入った。
JK「あの、これ1日目、2日目、3日目ってなってるんですけど、科目は1日で複数選択できるんですよ」
……えっ。
画面を見直す。できた。確かに複数選べた。そして説明も、書いてあった。
私「書いてあるけど。見落としたな、俺は・・・💦」
冒頭に書いた「最初に詰まったユーザー」は、この開始数分の私のことである。
言い訳をさせてもらうと、これはユーザーテストとしては大成功である。**「説明を書いても、ユーザーは読まない」**という、Webサービスの世界で最も有名な現象が、教師と教え子の間で完全に再現されたのだから。
私は彼女に、昔から知っている理屈を話した。
トイレの注意書きは、目線の高さか、触ってはいけない場所そのものに貼ってある。
どちらでもない場所に貼った注意書きは、無いのと同じ。アプリの説明文も同じで、ユーザーが実際に触る場所に書いていないと、読まれない。
JK「うっ・・・確かに!」
と言いながらメモしていた。
ちなみにこの貼り紙理論、実践の最先端は彼女の家のトイレにある(第8話参照)。
自分のアプリの最初の改善点は、「作者しか気づかない場所に書かれた、正しい説明」だった。

テストはもうひとつ、収穫があった。
勉強できない日が急にできたら、学習計画をAIが自動で組み直す——そんな機能の話になったとき、先に懸念を口にしたのは彼女だった。
JK「それ、けっこうAIを使っちゃうみたいで」
このアプリのAIは、1日18回しか使えない(第13話参照)。自動で組み直しをかけるたびにAIが動けば、無料枠はどんどん減る。制限と付き合ってきた彼女は、「便利な機能」の値段を先に見るようになっていた。
私が付け足したのは、お金の話ではなくスピードの話だ。
AIの再計算には待ち時間が発生する。そして人間は、待つのが嫌いだ。
2秒待たされたら、もうクリックしない。
YouTubeが冒頭2秒で見るかどうかを決められてしまうのと、同じ理屈である。
結論は、チェックボックスだった。
変更をまとめて選んで、ボタンひとつで手動更新。AIは使わない。無料で、無限で、速い。
最新のAIを教えてきたひと夏の結論が、「AIを使わない」である。教育とは、何なのだろうか。
格言:いちばん賢い機能が、いちばんいい機能とは限らない。

作者しか読めない説明を直し、AIを使わない更新方式を選ぶ。
派手さのかけらもない改善が2つ決まって、この日の前半は終わった。
次は、私ではない。家族以外の、本物の初見ユーザーにアプリを渡す番だ。
先生ですら詰まったのだ。知らない人は、どこで詰まるのだろう。
——その話の前に、この日の授業の後半で出た「自由の値段」の話を先にしたい。次回、お金の回である。
(第15話・了)
▶ 番外編: 同じ連載を2か所に載せたら、人気の回が真逆でした →
https://note.com/nagara_takumi/n/n3b368be147a3
https://nagarakigyou.substack.com/p/2
この連載は、実在する女子高生の学習過程を、本人・保護者の同意のもと個人が特定されない形で記録しています。会話は意味を変えない範囲で整理しています。