第10話・2026.10.20
年金の分かれ目は、手取りで計算すると5年うしろにずれる

老後のお金を「月いくら」に直す(10)
年金を60歳から受け取るか、65歳からか。
額面で計算した分かれ目は80歳10か月。手取りで計算し直すと、86歳になります。
年金が少ない人ほど、税金と保険料も少なくなるからです。
Threadsでこの話を書いたら、「国は手取りで話さない」という返信が届きました。
今回は、年金の分かれ目を、3つの式で手取りに直します。数字は、東京都大田区の一人暮らしの一例です。
式1 先に受け取った手取り ÷ 毎年の手取りの差 = 追いつかれるまでの年数
60歳から先に受け取った手取りの合計 ÷ 65歳からの毎年の手取りの差 = 65歳から受け取る人に追いつかれるまでの年数
根拠
60歳から受け取ると、年金は一生24%減ります(繰上げ受給・日本年金機構。08 で計算しました)。
その代わり、65歳までの5年分を先に受け取れます。
この「先に受け取った分」を、毎年の差で少しずつ取り返されていくのが分かれ目の計算です。08 では額面で計算しました。今回は、両方を手取りにします。
例(65歳からなら年200万円の人)
額面:先に受け取る 152万円 × 5年 = 760万円 ÷ 毎年の差 48万円 = 15.8年 → 80歳10か月
手取り:先に受け取る 約693万円 ÷ 毎年の差 約33万円 = 21.0年 → 86歳
65歳からの毎年の差は、額面では48万円。手取りでは33万円まで縮みます。
差が小さくなるほど、追いつかれるまでに時間がかかります。分かれ目は、5年うしろにずれます。

自分の数字を入れる
先に受け取った手取りの合計__万円 ÷ 毎年の手取りの差__万円 = __年 → 65歳 + __年 = __歳
式2 年金 − 110万円 − 104万円 = 所得税がかかる額
年金の額 − 公的年金等控除 110万円 − 基礎控除 104万円 = 所得税がかかる額(65歳以上・収入が年金だけの人)
根拠
「年金が増えても、税金で持っていかれる」という返信がいちばん多くありました。
ところが、この例では所得税はどちらも0円です。
65歳以上の人の年金からは、まず公的年金等控除の110万円が引かれます。さらに、所得税の基礎控除が2026年分から104万円に上がりました(所得が132万円以下の人・令和8年度の税制改正・国税庁)。
例
年200万円 − 110万円 − 104万円 = マイナス → 所得税 0円
年152万円 − 110万円 − 104万円 = マイナス → 所得税 0円
65歳以上で収入が年金だけなら、年214万円までは所得税がかかりません。
手取りの差を作っているのは、所得税ではなく、住民税と保険料です。
- 住民税:年200万円の人は約3.1万円。年152万円の人は0円(所得が45万円以下で非課税)
- 国民健康保険料:約10.3万円と約2.0万円(所得が低いと7割軽くなる)
- 介護保険料:約8.7万円と約5.1万円(式3)
住民税の基礎控除は43万円のままで、所得税とは別の線で決まります。
自分の数字を入れる
年金__万円 − 110万円 − 104万円 = __万円(マイナスなら所得税は0円)
式3 介護保険料の基準額 × 段階の割合 = 自分の介護保険料
住む町の介護保険料の基準額 × 自分の所得段階の割合 = 65歳から払う介護保険料(年)
根拠
65歳からの介護保険料は、町ごとに決まる「基準額」に、所得で決まる「段階の割合」を掛けて決まります。大田区は18段階で、基準額は年7万9,200円です(令和6〜8年度・大田区)。
住民税がかかるかどうかで、段階が分かれます。年金の額が少し違うだけで、段階が2つも3つも変わることがあります。
例(大田区・一人暮らし)
年200万円の人(住民税がかかる・所得120万円未満):7万9,200円 × 1.10 = 年8万7,120円
年152万円の人(世帯全員が住民税なし):7万9,200円 × 0.65 = 年5万1,480円
年3万5,640円の差です。住民税と国民健康保険料の差も足すと、毎年の額面の差48万円のうち、約15万円が税金と保険料の差で消える計算です。

自分の数字を入れる
住む町の基準額__円 × 自分の段階の割合__ = 年__円(市区町村の介護保険のページに表があります)
「国は手取りで話さない」
Threadsで手取りの分かれ目を書いたら、こんな返信が届きました。
- 国は、額面の数字でしか話さない
- 年金が増えても、税金や保険料も増える
そのあと、年金を遅らせると「一生84%増える」「一生16.8%増える」と書いたときも、いちばん多かったのは手取りの声でした。
- 控除も一緒に増えるなら、手取りは変わらないのでは?
- 増えた分、社会保険料も増える
- 知り合いは、年金が増えたら住民税と介護保険料が上がって、がっかりしていた
- 税金と保険料も増えるから、分かれ目はもっと後ろにずれる
- 全体でシミュレーションして、手取りで比べたい
1つ目の答えは、式2のとおりです。所得税の控除は増えても、住民税と保険料は所得の段階で上がります。
もう1つ、住民税や保険料は前の年の所得で決まるので、年金が増えた「次の年」に負担が増えたと感じることがあります。
年金の額は、ねんきん定期便でも、日本年金機構のページでも、額面で書かれています。
手取りは、住む町と、世帯と、ほかの収入で変わるので、1つの数字で書けないからです。
だから、自分で計算するしかありません。
02 では、年金暮らしでも毎月3万3千円の税金と保険料が引かれることを計算しました。分かれ目まで手取りで出すと、受け取り方の見え方が変わります。
分かれ目は、町と世帯で動く
年金を60歳から受け取るか、65歳からか。
額面なら80歳10か月、手取りなら86歳。同じ人の同じ年金で、分かれ目が5年動きます。
この5年は、「年金が少ない人ほど、税金と保険料も少ない」という仕組みから出てくる数字です。
住む町の保険料、夫婦かどうか、働く収入があるかどうかで、また動きます。
お金を、人生の時間に変換する。
分かれ目は「何歳」という1つの答えではなく、自分の町と世帯で計算し直す数字です。
手取りで比べる前に知っておくこと
- 国民健康保険料・介護保険料・住民税は、住む市区町村で変わります
- 夫婦の世帯では、配偶者の所得で住民税や保険料の段階が変わります
- 働く収入や、ほかの年金があると、計算は大きく変わります
- 所得税の基礎控除104万円は、令和8・9年分の額です。令和10年分からは見直されます
- 2026年11月までは、年金から天引きされる所得税の計算は変わりません
自分の場合は、住む町の窓口と年金事務所で確かめてから決めてください。
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FIRE Strategy Lab | FIRE戦略シミュレーター
書いた人
年金・節約・給付金を「いくら得する?」で分解しています。
Threads(@nagara_takumi)で毎日、大きな数字を「月いくら」に直しています。
投資歴22年・エンジニア歴20年の会社員です。
https://www.threads.com/@nagara_takumi
出典
- 日本年金機構「年金の繰上げ受給」減額率 0.4% × 繰り上げた月数(60歳から24%)
- 国税庁「令和8年度 源泉所得税の改正のあらまし」基礎控除 令和8・9年分 合計所得132万円以下 104万円・65歳以上の源泉徴収を要しない公的年金等の額
- 大田区「介護保険事業概要(令和6年度)」所得段階別保険料 基準額 年79,200円・第3段階 51,480円・第6段階 87,120円
- 大田区「令和8年度 国民健康保険料」医療分・支援分・子ども・子育て支援分の料率と均等割
- 試算の条件: 東京都大田区・一人暮らし・国民健康保険・収入は年金だけ・65歳からなら年200万円(60歳からなら年152万円)・2026年度の料率で毎年同じとした場合
注意
- 手取りの分かれ目は、上の条件での一例です。住む町・年金の額・世帯・ほかの収入で変わります。
- 住民税は概算です。国民健康保険料の軽減の判定は、世帯の所得で決まります。
- 年金の額や料率は毎年変わります。分かれ目の計算は、毎年同じとした場合です。
- 繰上げ・繰下げのどちらかを勧めるものではありません。
- 学習用の計算です。将来の成果を保証するものではなく、特定の金融商品の推奨ではありません。
- 年金の額と制度は変わります(この記事は2026年10月時点)。