第9話・2026.10.18
年金を70歳まで待つと、一生42%増える。なのに、待つ人は100人に2人でした

老後のお金を「月いくら」に直す(9)
年金を70歳まで待つと、一生42%増えます。それなのに、待つ人は100人に2人もいません。
理由を聞いたら、160件以上の返信が届きました。いちばん多かった答えは、「42%増えても、手取りまで42%増えるとは限らない」でした。
満額の基礎年金なら、月7万608円が月10万263円。
今回は、受け取りを遅らせる「繰下げ」を、3つの式で「何年」に直します。
式1 0.7% × 待った月数 = 一生増える割合
0.7% × 65歳から待った月数 = 年金が一生増える割合
根拠
年金は65歳から受け取るのが基本で、66歳から75歳までの間に遅らせて受け取ることもできます(繰下げ受給・日本年金機構)。
- 1か月遅らせるごとに、0.7%増える
- 75歳まで待つと、最大84%増える
- 増えた割合は、一生そのまま
- 基礎年金と厚生年金は、別々に遅らせることもできる
例
0.7% × 60か月 = 42%
満額 月7万608円 × 1.42 = 月10万263円
- 66歳から:8.4%増える
- 68歳から:25.2%増える
- 70歳から:42%増える
- 75歳から:84%増える
会社員だった夫の年金(モデル世帯で月約16万7千円)なら、70歳からは月約23万7千円。1人で、夫婦2人ぶんのモデル年金とほぼ同じ額になります。

自分の数字を入れる
0.7% × 待つ月数__か月 = __%増える → 年金の月額__万円 ×(1 + __%)= 月__万円
式2 受け取り始めた年齢 + 11年11か月 = 65歳からの人に追いつく年齢
繰下げで受け取り始めた年齢 + 11年11か月 = 65歳から受け取った人に総額で追いつく年齢
根拠
待った人は、多い額を短く受け取ります。
65歳から受け取った人は、少ない額を長く受け取ります。
08 の繰上げと同じように計算すると、何か月待っても、追いつくのは「受け取り始めてから11年11か月後」でした。
1か月あたりの増え方(0.7%)が、いつも同じだからです。
例
66歳から受け取った場合:66歳 + 11年11か月 = 77歳11か月
70歳から受け取った場合:70歳 + 11年11か月 = 81歳11か月
75歳から受け取った場合:75歳 + 11年11か月 = 86歳11か月
70歳から受け取ると、追いつくのは81歳11か月。男性の平均寿命(81.35歳)のすぐ後ろです。
08 の繰上げ(60歳から受け取ると、追いつかれるのは80歳10か月)と並べると、早めても遅らせても、分かれ目は80歳を過ぎたあたりにありました。
自分の数字を入れる
受け取り始める年齢__歳 + 11年11か月 = __歳__か月
式3 加給年金 × 待つ年数 = 待っている間に受け取れないお金
加給年金 年42万3,700円 × 待つ年数(配偶者が65歳になるまで)= 待っている間に受け取れないお金
根拠
厚生年金に20年以上入っていて、65歳になったときに年下の妻(夫)を養っている人には、「加給年金」が上乗せされます。令和8年度は、配偶者の分と特別加算を合わせて年42万3,700円です(日本年金機構)。配偶者が65歳になるまで受け取れ、届け出が必要です。
ところが、厚生年金を繰り下げて待っている間は、加給年金を受け取れません。待ったあとに増えることもありません。
例(夫が65歳のとき、妻が62歳)
年42万3,700円 × 3年 = 約127万円
夫が厚生年金を70歳まで繰り下げると、この3年分は受け取らないまま、妻が65歳になって加給年金は終わります。
一方で、基礎年金と厚生年金は別々に遅らせることができます。加給年金は厚生年金に上乗せされるお金なので、どちらを遅らせるかで、受け取れる額が変わります。

自分の数字を入れる
年42万3,700円 × 配偶者が65歳になるまでの年数__年 = __万円
待たない理由は、「増える割合」の外にあった
Threadsで「年金を繰り下げて受け取っている人は、わずか1.6%です(厚生年金の受給者)」と書いたら、160件以上の返信が届きました。待たない理由で多かったのは、この3つです(返信を読んだうえでの多い順の目安)。
- 増えても、税金や保険料も増える
- 健康で長生きできる保証がない
- 65歳まで働くから、そのまま65歳から受け取る
1つ目は、冒頭に書いたことです。日本年金機構も注意として書いていて、年金が増えると、税金や保険料、医療や介護の自己負担が変わることがあります。42%増えても、手取りまで42%増えるとは限りません。
待つ人の声もありました。
- 自分で事業を始めたので、年金は後ろに回せる
- 66歳からでも、毎年8.4%ずつ増えるのは魅力
- 1年だけなら、待つことを考える余地がある
- 70歳まで働いて、70歳か75歳から受け取る予定
なかでも多かったのが、基礎年金と厚生年金を分けて考える人です。
- 65歳でフルタイムのアルバイト。基礎年金は65歳から受け取り、厚生年金だけ70歳まで遅らせて42%増やす予定
- 基礎年金だけを遅らせている。完全に仕事をやめたときに基礎年金も受け取れば、収入があまり変わらない
- 65歳でフルタイム。基礎年金だけ受け取り、厚生年金は遅らせている。給料があるうちにローンを返し終えたい
働いている間は「少なめの年金+給料」、仕事をやめたら「増えた年金」。収入の段差をなくすように、受け取り方を組み立てていました。
反対に、「84%増えるのはうれしいけれど、その年まで元気でいられる自信がない。65歳からでお願いします」という声もありました。
「待てる人」は、65歳からの数年を、働く収入か貯蓄で暮らせる人でした。
待つか、待たないか
年金を70歳まで待つと、一生42%増えます。
それでも、65歳から受け取った人に追いつくのは81歳11か月でした。
42%は、割合で見ると大きな数字です。
でも「何年」に直すと、受け取り始めてから11年11か月という、自分の人生の長さの話になります。
お金を、人生の時間に変換する。
待つかどうかは、増える割合ではなく、65歳からの数年を何で暮らすかで決まる数字でした。
繰下げの前に知っておくこと
繰下げは、増える割合のほかにも、変わることがあります(日本年金機構)。
- 加給年金や振替加算は増えず、待っている間は受け取れない
- 繰下げで増えた分は、遺族厚生年金には反映されない
- 働いていて年金が止まる部分(在職老齢年金)は、増える対象にならない
- 年金が増えると、税金・保険料・医療や介護の自己負担が変わることがある
- 66歳から70歳の間に障害年金や遺族年金を受ける権利があると、繰り下げられないことがある
自分の場合にどうなるかは、年金事務所で確かめてから決めてください。
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FIRE Strategy Lab | FIRE戦略シミュレーター
書いた人
年金・節約・給付金を「いくら得する?」で分解しています。
Threads(@nagara_takumi)で毎日、大きな数字を「月いくら」に直しています。
投資歴22年・エンジニア歴20年の会社員です。
https://www.threads.com/@nagara_takumi
出典
- 日本年金機構「年金の繰下げ受給」増額率 0.7% × 65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数(最大84%・66歳以後75歳まで)・加給年金と振替加算・遺族厚生年金・在職老齢年金などの注意点
- 日本年金機構「加給年金額と振替加算」令和8年4月から 配偶者 243,800円・特別加算 179,900円(昭和18年4月2日以後生まれ)
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」老齢基礎年金 満額 月70,608円
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定」モデル世帯 月237,279円(夫の分は基礎年金を除いて計算)
- 厚生労働省「令和7年簡易生命表」平均寿命 男81.35年
- 繰下げの利用率: 厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報」(令和5年度末)を引用した解説記事
注意
- 昭和27年4月1日以前に生まれた人は、70歳までしか繰り下げられません。
- 分かれ目の計算は、年金の額が毎年同じとした場合です。実際は毎年改定され、税金や保険料も引かれます。
- 返信の「多い順」は、返信を読んだうえでの目安で、件数を数えたものではありません。
- 繰上げ・繰下げのどちらかを勧めるものではありません。
- 学習用の計算です。将来の成果を保証するものではなく、特定の金融商品の推奨ではありません。
- 年金の額と制度は変わります(この記事は2026年10月時点)。